私たち久保井インキの製品とは、言うまでもなく、印刷用のインキ(インクと呼ばれる方もいますがここではインキと呼ばせて頂きます)です。
この「インキ」には、オフセット印刷用、グラビア印刷用、フレキソ印刷用、金属印刷用、シルクスクリーン印刷用といった印刷方式や、UVインキ、酸化重合インキ、油性インキ、水性インキ等インキの組成や乾燥に関することまで、様々な種類のインキがあります。製品毎に特長が異なり、それぞれに異なる「品質保証期間」が設定されています。
今日は、この「品質保証期間」に関するお話をしたいと思います。
まず、一口に品質保証期間と言っても、言葉の解釈は人によって異なります。ある人は「この期間を過ぎたら使えない」と考え、またある人は「品質保証をしてもらえる期間で、それを過ぎても使える」、「品質の目安であり、あまり気にしない」等、本当に色んな解釈があります。
品質保証期間と似た言葉で、「品質保証期限」や、「品質保持期限」等もありますが、 「品質保証期限」 は今回お話している「品質保証期間」と同じ意味で良いと考えています。
「品質保持期限」 は、字だけを読んで考えれば、品質を保持できる期間の限界?と捉えれば良いかと思いますが、通常弊社では使わない言葉なので、これは参考程度に捉えて頂ければと思います。
他にも、「期待寿命」という言葉もありますが、これは我々の製品である印刷用インキには馴染まないため、弊社では使用していません。
UVインキの硬化に必要なUVランプは、メタハラランプであれば一般的に1500~2000時間程度使えることから、2000時間を期待寿命と呼んでいます。
では、品質保証期間とは何なのか。弊社では以下の様に定義しています。
*1 あらかじめ定められた条件下で、当社が定めた品質規格から逸脱した状態、又は規格化されていない事象であっても、弊社が善良なる管理者として交換する必要があると認められる状態を指しています。
*2 故意による場合は保証の対象となりません。
少し難しい言葉が並んでいますので解説すると、「 あらかじめ定められた条件下で」とは、使用や保管の環境等を指してます。
例えば弊社の代表的なラベル印刷用UVインキの場合は、日本国内の一般的な管理がされている工場で使用されることを前提に設計されており、使用時には一般的に印刷作業に従事する人が快適に過ごすことが出来る温度(18~28℃)で*3、保管時は熱や紫外線等を避け、5~30℃(ものにより5~25℃の製品もあります)で保管するよう求めています。これは、この条件であれば製品が増粘や硬化を起こしたり、成分が分離してしまう等が起こらないと弊社が判断している為です。
溶鉱炉の真横や冷凍倉庫の中、スキー場や炎天下のビーチ等でインキを使用(印刷に使用する)や、保管されるとは想定していませんので、この場合は品質保証の対象外となります。
*3 厚生労働省 事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について(令和 3 年 12 月 1 日付け基発 1201 第 1 号)による。
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000905329.pdf
次に、 「当社が定めた品質規格から逸脱した状態 」とは、製品毎に定められた「規格値」から逸脱していることを指しています。
インキを製品化するとき、様々な規格に合うよう製品を作る必要があり、例えば硬さやインキの濃度、乾燥性能などがこれに該当します。インキが極端に硬かったり、柔らか過ぎると印刷現場で使用する際に支障がでます。また、乾燥性能が遅いと印刷不良の元になりえます。これらの問題が起きぬよう、硬さをTV値6~10、DM値を36~45、硬化速度を50m/分1回で硬化等、明確化された数値で定めたものが品質規格です。
つまり、「当社が定めた品質規格から逸脱した状態 」とは 、硬さやインキの広がり、硬化性能等が、定められた規格値から逸脱していることを指しています。
規格と検査のイメージ(TV値:インキの粘度をタックバリューという数値で測定する試験によります)
規格値 | 検体名 | 測定値 | 結果 |
TV:6.0~10.0 | 検体A | 8.0 | 〇 (出荷可能) |
検体B | 10.5 | × (出荷不可) |
弊社製品は、このように規格化された品質規格に入っていることを検査で確認し、初めて出荷可能になりますので、工場から出荷された時は(正確には出荷前の検査時点では)製品毎に定められた規格に適合しているということになります。
続いて、「品質保証期間」を設定する際に、何を根拠に6ヵ月や12ヵ月と設定するかについてお話します。
品質保証期間を設定する際は、当該製品に関連する以下の情報を収集します。
1 | 当該製品への使用が予定される原材料の品質保証期間 |
2 | 市場からの要求事項 |
3 | 当該製品に最低限品質保証が必要と想定される期間 |
4 | 原材料を混ぜ合わせた時に起こる反応や不安定要素等 |
5 | 印刷テストの結果 |
6 | 当該製品を複数ロット試作し、従前「 あらかじめ定められた条件下 」で保管しながら経時変化を追いかけた結果、品質的に問題ないと判断した期間 |
7 | 環境影響評価の結果 |
8 | その他、必要な情報 |
基本的には、上記1~6を番号順に、時には同時やその他もありますが評価を行います。印刷テストの結果、印刷品質に問題がなく目標とするスペックに到達している事を念頭に、特に1(原材料の品質保証期間)と6(保管試験の結果)に注意し、この2つの期間のうち短い方を基準にその他情報を勘案し、総合的に判断します。
品質保証と、不具合が起きた時の原因調査は切っても切れない関係にあり、品質保証による返品や交換が発生した時は必ず原因の調査が行われます。不具合には様々な原因があり、単純なヒューマンエラー(人的ミス)もあれば、社内で定めた手順やそもそもの設計にミスがあるシステムエラーの場合もあります。
最近は「5M1E」と呼ばれる手法を用いて調査することが多く、6つの大きな分類で原因を探して行く手法です。従来は原因を追究していくときには単純に「なぜなぜ」で追いかけるだけだったりしましたが、これだけでは不十分とのことで考え方が進化しています。故障の影響解析(FMEA)と、故障の木解析(FTA)といった手法を用いることもあります。
5M1Eとは以下の、Mで始まる5つの言葉と、Eで始まる1つの言葉でできています。
5M1E | 日本語 | 英語 | 主な確認点 |
---|---|---|---|
1M | 人 | Man | 誰が作業したか。 作業者の力量は足りていたか。 |
2M | 装置 | Machine | どの設備で作業したか。 定められた機械を使っていたか。 |
3M | 材料 | Material | 正しい原材料を使用したか。 使用期限が切れていなかったか。 |
4M | 方法 | Method | どの方法で作業したか。 決められた温度、圧力をかけたか。 |
5M | 測定 | Measurement | 測定結果は正しかったか。 正しく測定したか。 |
1E | 環境 | Environment | 作業環境は問題無かったか。 気温、湿度、色判定時の標準光源等。 |
近年の変更管理でよく言われる「4M」とはここでの1(人)から4(方法)までの事を言っています。
また、発見した原因に関しても様々な議論を行い、同じ失敗を起こさない「再発防止」は当然として、類似する失敗を防ぐために「予防措置」と呼ばれる是正も行われます。
この是正措置の精度がいかに高いか、改善されたシステムやチェック項目を確実に順守しているかが、その後の製品性能の安定化に非常に重要で、不具合の原因を突きとめたつもりが間違っていたり、原因は正しくても是正措置を誤ってしまうと、同じような不具合が再発するという最悪の結果を招く事があります。
品質管理は奥が深く、製品の原材料、生産プロセス、機械設備のことなどを含めて相当な知識が必要です。また、いざ品質保証が発動してしまうと、原因究明と是正措置、場合によっては顧客への報告書の提出などタスクは多岐に渡ります。
弊社の品質管理はまだまだ伸びしろだらけ。そう考えて日々の生産活動、品質向上の活動に精進し、品質保証を発動することなく無事にお客様のもとで消費される製品を作り続けたいと日々考えています。
このページに記載されている内容は、弊社内において信頼しうると思われるデータにより検討し、作成しましたが、参考までに挙げた一例に過ぎません。
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