皆さまは、普段お使いになっている我々の製品(印刷用インキ)を何と呼んでおられますか。
「インキ」、「インク」、どちらかで呼ばれる事が多いと思います。私たちインキメーカーが印刷業界やインキ業界内で使うのは「インキ」ですが、「インク」と呼ばれる方も多く、明確な違いや差を考える機会はあまりありません。
では、この「インキ」と「インク」はどう違うのか。
今回は幾つかの切り口で掘り下げていきたいと思います。
「インキ」、「インク」どちらもまず思いつく語源はもちろん、ink、英語です。私たちが世界中のインキ会社や印刷会社の人たちと話したり、メールのやりとりをする時も、全て英語でinkです。
ただ、英語でinkではありますが、オランダ語のinkt(インキト)を語源としているとする説も多く、数多くのWEBサイトやWikipediaでも紹介されています。また、フランス語でencrer(アンクル)、イタリア語はinchiostro(インキオストロ)というように、よく似ています。これらの事から、InkもInktも、アンクルもインキオストロも語源は同じだったと思われます。
では、この「INK」の発音はどうでしょう。今までの商談の経験から、日本の印刷業界では概ね80%程度の人が「インキ」、20%程度の人が「インク」と発音されているように思います。
大手インキメーカーの社名が「大日本インキ(現DIC)」や、「東洋インキ」なので、これに慣れているのかも知れませんね。
しかし、印刷業界を離れると、インクジェット、万年筆のインク、ボールペンのインク等が多く、「インキ」を使う人はあまりいないように思います。
外国人と会話をして面白いのは、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアの人たちはINKを「インク」と発音する人が多く、ほぼ全員が「インク」と言っています。
反対に、中国、台湾の人たちは「インキ(正確にはインクィ)」と発音する人が多く、訛りみたいなものかな、と理解しています。
インクジェット、万年筆のインク、ボールペンのインク等から想像されたであろう、粘度が低いものは「インク」、粘度が高いものは「インキ」だという説もあります。
インキ業界ではどうでしょう。
インキ業界内で低粘度のものといえば、主に軟包装(詰め替え用シャンプーの袋や、ポテチ等のお菓子の袋)、PETボトルの外装ラベル印刷等に使用されるグラビアインキや、段ボールや買い物袋の印刷に使用される、フレキソインキが該当します。
これらのインキは有機溶剤やアルコール、水を主成分とするため粘度が低く、20~25℃のとき、およそ100~500mpa.s程度です。
ちなみに、水の粘度はおよそ1mpa.s、食用のサラダ油やオリーブオイルは80~100mpa.s、トマトジュースはおよそ400mpa.s、シャンプーは2,000~3,000mpa.s、ドレッシングは幅が広く、2,000~10,000mpa.s程度です(いずれも20~25℃)
UVインキを扱う人ならご存知と思いますが、UVインキ用レジューサーという低粘度の添加剤がありますが、こちらはおよそ1,000~2,000 mpa.s程度となっています。
低粘度のインキであっても、特別に「インク」と定義する事例は無いようです。
インキの成分は大まかには顔料、合成樹脂(ワニスやオリゴマー)、溶剤(石油系溶剤、有機溶剤、アルコール、アクリルモノマー等)、助剤(添加剤)で構成されます。最近は合成樹脂成分をバイオマス製品に置き換えたバイオマスインキや、溶剤を水に置き換えた水性インキも登場しています。
有機物、無機物の違い(レーキレッドCや酸化チタン)や、染料、顔料の違い、乾燥方式(酸化重合、浸透乾燥、熱乾燥、UV硬化等)を見ても、大きな違いは無さそうで、インキの成分や種類によらず、粘度によるものと同様、特別な定義はなさそうです。
Webで「インキ」や、「インク」を検索すると差があります。
「インク」では、一番上に家庭用のプリンター向けインクカートリッジの広告が幾つも表示され、広告の下にもよく似た検索結果が続きます。
リサイクル、価格で勝負!など、かなりの激戦が繰り広げられています。関連する言葉も多く、互換インク、万年筆等が並びます。
「インキ」で検索すると、一番上には「インクとインキはどちらが正しいのでしょうか?|印刷通販 …」と、あります。
まさかの同じテーマ(笑)
その後、Wikipedia、コトバンクに続き、大手インキ会社のHPが続きます。
「インク」と検索するとあれだけ出て来たインクカートリッジの広告が「インキ」の検索結果には全くありません。
それだけ「インク」の名称は広く一般に浸透しているんですね。
ちなみに、「インキ」の関連ワードは大手インキ会社の他には、インキュベーション、マジックインキ等が出てきます。
マジックインキというと、?マークで有名な寺西化学さんの「マジックインキ」ですね。コピーは「どんなものにもよく書ける」。
本当に色んなものに書けます。まさにマジック。
我々世代の人は油性ペンの事を「マジック」と呼ぶ人が多く、「マジックインキ」から「マジック」の名前が広がったことは想像に難しくありません。
マジックインキ等のペンに使われているのは「インキ」ではなく、「インク」が多いイメージでしたが、このペンの商品名には「インキ」が採用されています。
このペンが入っていた引き出しは他にも、こんなものが。
シャチハタさんのXスタンパー用補充インキ。
こちらも「インキ」です。
余談になりますが、ご家庭やオフィスで使われているインクジェットプリンターの「インクジェット」という言葉、実はシャチハタさんの登録商標になっています。
出願日は1963年4月というから驚きです。今から50年以上前に「インクジェット」を生み出していたなんて、凄い先見性ですね!
私の数年間の受信メールを「インキ」、「インク」の文字列で検索してみました。(送信済メールには、久保井インキ株式会社の署名が入ってしまうので除外しました)
余りのヒット数の多さに、ヒット数は単語の登場回数ではなく、メールの数で集計しました。
結果
「インク」715通
「インキ」17,141通
圧倒的にインキでした。
ただし、この結果は弊社社員や、そもそも印刷関連業界の人たちとのやりとりがほとんどなので、「インキ」を使う人が多いのは当然の結果ではあります。
色々な切り口で「インキ」か、「インク」かの答えを探してきましたが、弊社が出した結論は、、、
英語で書いたらどちらも「Ink」、インキもインクも間違いではなく、どちらを使ってもきっと世界中で通用します。
これからも使い慣れた言葉でコミュニケーションして下さい。
この記事は2000年11月に弊社HPで掲載した「色々、色のお話し 第一話 インキなの?インクなの?」をベースに、さらに調査のうえ掲載しました。
このページに記載されている内容は、弊社内において信頼しうると思われるデータにより検討し、作成しましたが、参考までに挙げた一例に過ぎません。
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