弊社の香り印刷製品の出荷の可否判断は、最終的に私の上司が判断することになります。
工程内で様々な検査があり、それぞれに標準化された試験方がありますが、香りの判定はとりわけ難しく最終最後の判断はやはり人間です。分かりやすく表現するならば、香りが十分であれば出荷してよい、そうでなければやり直しです。香りが強すぎても弱すぎてもよくないので、微妙なラインの場合は、社内の全員の意見を聞くこともあります。
先日もまた、そのようなことがありました。
展示会に出す印刷サンプルの香りづけで、それまですでに何種類かの香りをチェックした私は鼻がきかなくなり、上司に判断を仰いだのです。
するとそのとき、「はい」と言って私から紙を受け取り、印刷面を擦って香りを確認するために鼻を紙に近づけた上司は、ぎゅっと目を閉じていました。嗅覚を研ぎ澄ませている顔です。
まあそういうものなのかもしれませんが、普段はあまり表情の変化しない上司がそんな顔をするもので、内心、(おかしいな)と思っていました。
そんなこんなで、みんなそれなりに真剣です。
しかし真剣になりすぎて、香りに対して神経質になるすぎることもあり、ときに弊社の印刷室は香料インキの良い香りが充満する中で、「これは香りがついていないんじゃないか」「弱いんじゃないか」とピリピリした雰囲気になることもあります。
そういうときは一度印刷室を出て紙の香りを確かめるのですが、先日は、外に出た瞬間、近所の家からふぁ~と漂ってきたおいしそうな夕飯の匂いにすべてがかき消されました。
もう辺りは真っ暗で、みんなで笑って、その日は、「また明日にしようか」となりました。
久保井インキ株式会社
香りの印刷所 プルースト