「元祖七合目」でガックリと落ち込んだ心ですが、最高地点標高3776mの頂を目指す道はまだまだ続きます。
苦しさに耐えながら歩いていると、いつかあたりは暗くなり、山道に夜が訪れました。
九合目の山小屋、「万年雪山荘」で疲弊した身体を休めます。
設置された自動販売機で飲み物を買いました。見たこともないような銘柄のお茶が、「400円」です。
五合目から100円高くなっています。いい商売だなと思いながら、喉は渇いていたのでしぶしぶ購入しました。
山小屋の中ではビールも飲みました。クタクタの身体にビールの味は染み、ふうーっと人心地着いたような気分にはなったのですが、山荘で雑魚寝の夜はあまり眠れませんでした。
同行した人からは「爆睡してたぞ」と言われたのですが、本人は疲れた感じのまま、翌朝未明から再出発です。
未知の領域、いよいよ佳境の3500m以上に差し掛かったあたりから、一歩一歩が重く、体に圧しかかるかのようです。しかし挫けず、「吸うのではなく吐く」「1m前にあるロウソクの火を吹き消すイメージ」という、目の前のガイドさん直伝の呼吸法を実践していると、何とか足を止めずに登っていくことができました。
そして、ついにその瞬間が訪れました。歓喜の登頂です。
はじめて見るご来光が目に染み入るように眩しい…。
苦しみ悶えながらも登ってきた甲斐のある、素晴らしい、ありがたい祝福の光です。
どうでしょう。我ながら、この雄姿! そしていい笑顔です。
この挑戦以来、テレビや新幹線の窓から富士山の姿を見るたび、「自分は一度あの頂上まで登ったんだ」という誇らしい気持ちになります。道中の困難、苦痛、そして「元祖七合目」で騙されたような気分になったことも、今では笑い話みたいなものです。
久保井インキ株式会社
久保井 伸輔